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「盲導犬クイールの一生」の著者 石黒謙吾さん

『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋刊)、この本を読んで涙した人は、イキイキペットライフの読者にも多いのではないでしょうか。
ドラマ化、映画化され、さらに国内だけでなく中国や台湾でもベストセラーになっているほどその感動の波は広がっています。
今回はこの本の著者である石黒謙吾さんにお話を伺います。

盲導犬クイールとの出会い

「自分が死ぬとき、枕元にダーッと自分の著書が並んでいたら楽しいじゃないですか!」
「自分が死ぬとき、枕元にダーッと
自分の著書が並んでいたら
楽しいじゃないですか!」
盲導犬をテーマにした出版物はすでに他にも世の中にたくさんあったと思いますが、なぜ『盲導犬クイールの一生』を手がけることになったのですか?

「13年前(当時32歳)、雑誌の編集者という仕事にくたくたになっていた時で、人生の転換期を迎えていました。書店で秋元良平さんの写真集『盲導犬になったクイール』(あすなろ書房)を偶然手にして、ものすごく心を打たれたんですね。盲導犬には“生ませの親”“育ての親”“しつけの親”、3人の親がいることをその時知ったんですが、僕は4歳の時両親が離婚して父に育てられ、2番目の母とは死別、3人の母親を持つ自分の生い立ちが重なったんです。
僕自身、小さい頃から犬との暮らしを体験していて、10歳から17歳まで一番長く共に過ごしたロック(テリヤの雑種)とはテレビを観るのも、寝るのも一緒、まさに兄弟のように暮らしたから、記憶の中の情景がクイールとオーバーラップしました。
その4年後、これがまた偶然で秋元良平さんとご縁ができたんです。話を伺うとクイールはまだ生きているものの身体が弱ってきているらしいという。誕生からずっとクイールを撮り続けてきた秋元さんが盲導犬、そして引退後、盲導犬協会のデモンストレーション犬として活躍したクイールの一生をかたちに残したいという話を聞いて、ぜひ本にしたいと何かに突き動かされる思いがしました。それは親のいない寂しさを和らげてくれた、自分が犬たちから受けてきた恩を本というかたちにして少しでも返せればという気持ちでもあり、これは出さねば!という絶対的なものでしたね」

クイールには会ったのですか?

ドラマ化、映画化にもされた『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋刊)
ドラマ化、映画化にもされた
『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋刊)
「それが、京都まで飼い主の方に会いに行こうとしていた矢先にクイールが他界したので、生前のクイールに会わずしてこの本を書くことになったんです。でも自分の生い立ちから、クイールとは何か強い運命的なものを感じていました」  実は『盲導犬クイールの一生』が誕生するまでにはとても時間がかかっているそうです。既に秋元氏による写真集が出版されていたこともあり、クイールを大切に思っている人たちからはもうそっとしておいてほしいという声もあがり、まずは承諾を得るまで半年。そして出版社に断られた回数はなんと10社以上にのぼるとか。

「話が出て出版されるまでに3年かかりました。実はこの出版元の文藝春秋さんでも2回企画が立ち消えになっているんですよ。僕の作った本の中では出版社に断られた数もかかった時間もダントツ多い本かな。秋元さんの写真も約1万枚の中から70カット選ぶのが大変で!どれもいい写真ばかりでしたしね」
石黒さんが一読者としてたまたまクイールの写真集を手にした時から、見えない歯車が静かに回転し始め、「かたち」に向かう力となっていたのでしょう。出版に至るまで実に8年の月日が流れていました。

『盲導犬クイールの一生』を手がけて何か変わったことはありますか?

「盲導犬関連の交流が増え、不自由さを抱えている人に接することで、自分がいかに当たり前の思いやりができていなかったかに気付かされました。たとえば、右前に障害物があったら手だけではなく「右前に○○がありますよ」と声を添えながらケアするとかです。
仕事面でいえば、今まではエンタテインメント系の仕事が多かったこともあり、自分の仕事として面白いければそれでOKで、喜んでもらえるということに対して考え方が浅かった。つまり社会的な意義まで考えていなかったんですね。クイールを出版したことにより、読者が【盲導犬】という入り口から【福祉】に目を向ける…そういう人の役に立てる喜びみたいなものを感じました。

それから、自分のルーツというと大げさだけど、親がいなかったことでずっとあったわだかまりのようなものが自分の中で消化されたんだと思います。こうやって今、さらっと自分の生い立ちを話せるようになりましたから」

『盲導犬クイールの一生』の中で<ある盲導犬使用者は「ハーネス(盲導犬が装着する盲導具)をとおして青空を見ることができる」、また別の使用者は「盲導犬を失ったとき再び失明したかと思った」と語った…>という一節があります。犬嫌いだったクイールの使用者も「人間らしい歩き方を思い出させてくれた」と語ったそうです。
単なる道案内のための存在ではなく、それ以上に心のパートナーとなる盲導犬。健常者でも心が満たされず辛い時に癒してくれる存在がいることでどれだけ救われるか、そう考えると盲導犬の重要さを感じずにはおれません。
同著の中で、現在日本で働く盲導犬850頭(平成11年度実数。日本盲人社会福祉施設協議会調べ)に対して、それを待っている視覚障害者の推定数は4700人近く(日本財団公益福祉部環境福祉課調べ)と記されています。
この現状の背景には盲導犬を1頭育てるのに約300万円かかる資金的な問題、盲導犬訓練士など盲導犬の育成に携わる人手の不足などがあるそうですが、盲導犬に限らず、それはただシンプルに“困っている人に自分には何ができるか”さらには自分の生き方までをも考えるべき一石を投じているといえるでしょう。

かわいい同居犬“先輩”ちゃん

愛くるしい生後4ヶ月の先輩ちゃん。気立ての優しい子だそうです
愛くるしい生後4ヶ月の先輩ちゃん。
気立ての優しい子だそうです
出版社に何回断られてもめげずにアプローチし続けた情熱あふれる石黒さん。
プライベートではこのイキイキペットライフにも登場してくださった奥様の石黒由紀子さんと、柴犬の“先輩”ちゃんと暮らしています。“先輩”とはとっても興味ある不思議な名前。
(その由来はバックナンバー石黒由紀子さんの記事をご覧ください!)

“先輩”ちゃんとの暮らしぶりを教えてください。

楽しいときも、辛いときも、いつも一緒に過ごした、よき友ロック
楽しいときも、辛いときも、
いつも一緒に過ごした、よき友ロック
「17歳で死別したロックの後はずっと犬を飼っていなかったんです。飼いたいとは思っていたんですが、自分がきちんとケアできる状態じゃないと飼ってはいけないと。忙しいOLさんたちが癒しのためにペットを飼っているのは悪いことじゃないけど、じゅうぶんに見てあげられないのだったら我慢しなさいよと思うんですよね。やっぱりしわ寄せがペットのほうにいくじゃないですか、かわいそうですよ。
で、僕もかみさんも忙しいからなかなか飼えなかったんですが、去年そろそろいいかなと思っているところへ、伊豆のドッグフォレスト(http://www.dogforest.com/)に行くことがあって、そこで“先輩”と出会ったんです。うちのマンションはエレベータに抱っこして乗れるくらいのサイズまでなら犬を飼ってもよろしいという規則があって、自分はでっかいラブラドールでも抱えてやるよ! みたいな気もあったんですが(笑)、“先輩”は豆柴で抱くにもちょうどよいし、顔を見たらもうピピッと!即決でした。

僕はキチンとした飼い主には向かないですねえ(笑)。主従関係がはっきりしているほうが本当はいいんですけど、対等な立場になっちゃうんです。他人にしたらもちろん怒りますが、自分に噛み付いても怒れないし、遊ぶときも一緒になって徹底して遊ぶ。
先輩ちゃんの話になると顔がほころぶ石黒さん
先輩ちゃんの話になると
顔がほころぶ石黒さん
かみさんの方が「NO!」とはっきり言うから、かみさんの言うことはよく聞きますよ。
僕が唯一厳しいのはメシですね。不要なメシ、間食は一切あげない。今、太った犬が多過ぎます。犬はいくらでも食べれちゃうんだから、こちらが制限しないと寿命を縮める手伝いをしているようなもんですよ」 朝の散歩は毎日30分、石黒さんの役目。夜の散歩は奥様が担当。1歳数ヶ月の先輩ちゃんは早起きで5時くらいにはすでに起きているようで、石黒さんの周りをうろうろ、様子を伺いながら近づいてきて今度は石黒さんの顔をずっとなめる。そうやってじわじわと起こされすっかり先輩ペースに巻き込まれているそうだ。
そんな先輩ちゃんも外では引っ込み思案。 「この間、3ヶ月ぶりに休みがとれて、深大寺にあるドッグランに連れて行ったんです。たくさん犬がいる大きなドッグランは初めてだったから、他の犬たちの元気さに圧倒されてビビッてすみっこに行っていましたけど。今さらだけど、楽しかったのかなあ!?」
帰宅すると待ってましたとばかりに先輩ちゃんが走り寄ってくるのが嬉しくて、帰るのが楽しみという石黒さん。「いやー、かわいいっすねえ」とコワオモテ!?の顔がみるみる緩むのでした。

石黒さんと出版物

犬にまつわる、石黒さんの数々の書籍(右上、クイールの横顔の表紙は秋元氏の写真集)
犬にまつわる、石黒さんの数々の書籍
(右上、クイールの横顔の表紙は
秋元氏の写真集)
クイールの印象が強いのですが、実は石黒さんは正統派からエンタテインメント派、本当に幅広いジャンルの出版物の仕事を手がけていますね。最近の著作物を教えて下さい。

「12月中旬には『ベルギービール大全』(アートン)が出ます。ベルギービールjapan主宰の三輪一記さんとボードキャストで[ベルギービールのおいしい話]という連載を今年の夏から12回でしていたんですよ。これから絶対注目集めますよ!ベルギービールは。それから正統派なものだと、今まだ出版社も決まっていない段階ですが、シベリア抑留の経験を油画にしている方との本をまとめたいと思っています。ドキュメンタリー番組をたまたま見て、すぐ会いに行きました。僕の叔父二人も抑留経験者なんですが、僕ら世代以降の親から戦争体験者が少なく、それを伝える人たちがいなくなりつつある。これはまずいですよ。絶対伝えていかなくちゃいけないことで、僕はファッション誌『JJ』の読者とかに読んでもらいたいのです。その画家の方は生きていらっしゃるけれど既に自分であまり話せなくなってきているので、来年の終戦記念日までには間に合わせたいんですよね。急がないと」

今、また熱き石黒魂が揺り動かされているようです。いや、またというより常に動いているイメージの石黒さんですが…。

「どんな素材でも僕のアンテナに引っかかるものは全てやりたいなあと思うんです。それは部数(売上げ)につながるからということではなく足跡を残したいというか。僕、初めから売ろうという計画で作ったものって正直ないですねえ。自信があっても売れない本もたくさんあるし(笑)。自分が死ぬとき枕元にダーッと自分の著書や編集した本が並んでいたいんです。生きてきた証として、至上の喜びを味わえる気がします」


最後に、今まで100冊以上の本を手がけられた中で一番のお気に入りを教えてください。

「うーん…まだ、ないってとこかなあ。どれも気に入っているんだけど、反省点は必ずあるんです。70点くらいのものが並んでる感じ。出したものを見返して、ああ、もう一回やったらもっとよくできるのにー!って(笑)。そういう意味ではこれから手がけていく中で生まれてくるといいですね、マイベストが。あ、でも犬がテーマの『どうして?』(アスベクト)はA4で2枚くらいしか文字量のない原作から作ったものですが、クリエイティビティが高かったと思います。文章の切れ目、絵の切れ目を考えながら、絶妙の流れでしあがったと自負しています。イラストレーターの木内達朗さん(イキイキペットライフ第9回登場)と、デザイナーの川名潤さんとのチームワークがうまくいった仕事でしたね。うれしいことに女優の石田ゆり子さんからは便箋2枚ぎっしりの、熱いお手紙を頂きました」

熱い思いで愛情を持ってかたちにした(出版した)ものも、出れば気持ちは次へと向かっている…そのタフなエネルギーでこの世に産み落とされた書籍が、石黒さんの本棚を埋め尽くす日はそう遠くはない気がします。

【伊豆高原ドッグフォレスト】

所在地: 〒413-0232 静岡県伊東市八幡野1163-1
交通:車/国道135号線隣接 電車:伊豆急行「伊豆高原駅」より徒歩3分
電話:0557-55-3611
ホームページ:http://www.dogforest.com
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